2014年9月14日日曜日

日本学術会議の運営のあり方について

 日本学術会議の会員として11年務めてきましたが、今月末で任期を終えることになります。日本学術会議は1949年に設置され、これまでにいくどかの制度的な変更がありました。最近では、2005年にそれまでとは違った方式で会員を選出するなどの改革が行われ、10年後の2015年にそれが評価されることになっています。
 一会員として、現在の日本学術会議の運営のことを関係の方々にお伝えしたいと思います。会員としての活動については別の機会に報告したいと考えています。



 第19期は日本学術会議の改革前の7部制で、私は第四部(理学)会員として2年間務めました。第20期から制度が変わりましたが、3部制の第三部(理学及び工学)の会員として選出されて3年間務めました。第20期からは、会員210名が3年を1期として任期は2期6年となりました。3年ごとに半数が改選される仕組みです。第20期はその初期状態として半数の105名が3年任期の会員として任命され、第21期には改選されました。第20期に3年任期で任命された会員は(70歳の定年等の条件を除いて)第21期にも新たな会員となりうるという特例があり、私は第21期に会員として選考されて2期6年を務めましたので、都合、2+3+6=11年間会員を務めた次第です。

 第20期からは、会員は「コ・オプテーション」によって、そのときの会員・連携会員の推薦に基づき、日本学術会議の中に組織される選考委員会による審議を経て候補者が決定されることになりました。第20期の終わりには第21期の会員の選考が行われましたが、上に述べたように、そのときには、任期を迎える半数の会員は再任の可能性がある(会員の候補者となり得る)として、会員で組織される選考に関わる委員会には一切、関わりをもつことはありませんでした。日本学術会議における会員選考の「公平性」と、組織運営の組「透明性」が確保されていたといえます。

 日本学術会議は内閣府に置かれていますが、政府から独立して科学者を代表する組織と位置づけられています。その特別な位置づけからも、組織の運営には自らの厳格な規律が求められるといえるでしょう。上にあげた「公平性」と「透明性」を堅持するのは当然のことでしょうし、同時に、他の組織からの「中立性」も大事な観点だといえます。

 会員として11年間務めてきましたが、どれほど学術界に貢献できたのか、振り返って反省することも多々ありますが、ここでは運営に関して述べることにします。

 今から3年前、第22期の発足にあたって会長から副会長の指名を受けて、微力ながら日本学術会議の運営に努めました。そもそも、副会長という立場にあって一般の会員と違うところは、代表して会務の執行を担うということだけで、組織の構成上で全会員はまったく同等です。権限が伴うような組織とは異なりますので、自ずから運営に特定の権限はもたないことを認識していました。通常は3年間、副会長を務めるのですが、1年半で辞任させていただきました。そのときのことは、すでにこのブログで「日本学術会議 副会長辞任にあたって」として報告したところです。それ以上のことはありませんでした。

 しかし、副会長を辞した後、日本学術会議の運営について、気になることが次々と出てきました。こうした中で、第166回総会(2014年4月)において、吉川弘之元会長(特別栄誉会員)から特別講演がありました。これを機に私自身も感じていたことを振り返るとともに日本学術会議のあるべき姿を再認識することになりました。

 吉川弘之先生の特別講演の資料の最後に「日本学術会議の構成・運営の原則」がまとめられています。
同等性(Collegiality): 会員は平等・自発的であり何人といえども特異な権限を持たない
自立性(Autonomy): いかなる集団とも利害関係を持たない
透明性(Transparency): 運営上の秘密は許さない
包含性・多様性(Diversity): 異質なものを排除しない
学術の俯瞰性(Panoramics)、開放性(Openness)、規範性(Normativeness)
組織の記憶(Institutional memory): 日本学術会議の過去の歴史の会員間共有
学術会議の運営にあたっては、会員の「同等性」に鑑みて、執行部と言えども特異な権限を持たないこと、また、運営にあたっては「透明性」を確保することなど、当然のこととして触れておられます。総会のその後の自由討論の中では、運営に関して会員間で共有すべきことについて会長にいくつか質問しましたが、その内容をここに述べるわけにはいきません。もう半年になりますので、通例では議事録(速記録)は公開されている時期ですが、この総会の記録はまだ公開されていないからです。

 特別講演では、さらに「10年目の法改正に向けて—改正に際して会員間で確実に合意しておくべきこと」として、10項目があげられています。
存在意義・目標の明確化: 歴史的な意義と現代の課題に対応する意義と目標
会員の意識: 社会に貢献することの原理的確認と会員間合意
運営の原則: 科学者が社会から護られていることの確認、問題があればその抽出
会員間連携: 学術のあり方・運営の議論が会員(含連携会員)間で十分に行われているか
専門学会との連携: 日本学術会議と学会との役割の認識の上での連携は十分か
助言活動: 助言対象の公開。また、すべての会員の自発的関与があるか。また、可能か
会員選出: 真に日本学術会議の使命を果たす者が科学コミュニティから選ばれているか
会長選挙: 候補者の資質・能力・倫理性・行動方針などについて十分な情報があるか
国際協力: 他国のアカデミーの現状把握とそれに基づく多様な協力・貢献の実現
広報活動: 学術の中心点としての責任あるメッセージを出し続けているか
——— 等についての会員のみならず社会的認知が必要である
とくに、「会長選挙」においては《候補者の資質・能力・倫理性・行動方針などについて十分な情報があるか》ということが課題とされています。今年の10月には新会員105名が任命され、現会員から継続の105名とともに総会を組織して、まず、会長を選出することになります。会員の「同等性」から、会員は等しく会長の候補者となり得ます。

 第167回総会(2014年7月)で新会員候補者を承認しましたが、その名簿は現会員には配布されていません。一方で、会長から、会員発令前の新会員候補者に向けて「日本学術会議のことや会長選挙のことを説明する会合を開く」という説明がありました。これに対して、「透明性の確保のためにも、中立性が求められる会長選挙等の説明に次期会長の候補になりうる者は関与すべきでなく、事務局が対応すべきである」との意見を述べましたが、次期にも会員を継続する現会長からは「問題ない」との回答でした。この総会の速記録もまだ公開されておりません。一般会員は新会員候補者の名簿は手にしていないのですから、一部で会員が名簿を利用することは会員の「同等性」に反するといえるでしょう。

 さて、実際、9月11日には新会員候補者向けの「説明会」が開かれたようです。現会長が招集して、会長、副会長(3名)、部長(3名)から日本学術会議の説明、活動報告や成果の説明とともに、継続の重要性が説かれたということです。会長になり得る者が招集した場で、会長となり得る者が説明するということは、会員の「同等性」や運営の「透明性」を念頭に置いたものだとはいえないでしょう。新会員候補者の多くは、こうしたことには気づかないでしょうし、現会員は(副会長や部長以外は)出席していないので情報は共有はされていません。その意図がなかったとしても、説明会において会長選挙への関与があったと見られかねません。

 すでに述べましたが、第20期からは会員選考がコ・オプテーションになりました。これは9年前の大きな制度改革だといえます。第21期の会員選考にあたっては、当時の会員のうちの半数は次期の会員にもなり得るので、該当者は会員選考には一切関与しないという形で、「透明性」が確保されていました。その後の会員選考では、制度上(特別の例を除いて)すべての会員が選考に関係することで問題は起こりません。会員が次期会員を選出し、会員が会長を選出するという一連の選考過程の「透明性」の確保には、十分に配慮すべきことだと思います。「日本学術会議の構成・運営の原則」および「10年目の法改正に向けて」にあげられている基本的なことがらを尊重していただきたいものです。なにより、学術界が社会に果たす役割を認識して、日本学術会議の運営の大原則である「透明性」を確保しなくてはなりません。

 もちろん、組織の歴史のすべてが正当性を持つということはないでしょう。必要に応じて見直すべきです。しかし、長く会員を務めてきた経験から、日本学術会議の理念を実現すべく先人が築いてきた「運営の原則」に基づいて運営することが大事だと認識しています。次期の会員の方々には「組織の記憶」にも目を配っていただき、日本学術会議を開かれた科学者コミュニティを代表する機関として「原則」を尊重した運営を行っていただくよう期待いたします。
 

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