2013年10月30日水曜日

研究公正局と博士学位取消し

最近、参議院で議員から「研究公正局」の設置に関する質問主意書が提出されたことと、早稲田大学で博士の学位の取消しがあったことを知りました。

このたびの質問主意書は、9月26日付け文科省の「研究における不正行為・研究費の不正使用に関するタスクフォース」の中間とりまとめに関するもので、10月25日に答弁があったとのことです。文科省のとりまとめについては「文科省の『研究不正に向けた取組』について(追記)」で意見を述べました。

学位の取消しについては、10月21日に公表されていますが、「不正の方法により学位の授与を受けた」という理由です。早稲田大学では初めてということですが、東大での学位授与の取消しについて、3年9ヶ月前に「知を窃(ぬす)んで地に落とす」を書いて以来、気になっていたことです。

2013年10月15日火曜日

研究者の兼業・兼職について

大学等に所属する研究者は、ときに、外部の組織から依頼を受けて、審議会や委員会の委員に就くことがあります。また、大学の非常勤講師といった形で教育に携わる兼職をすることもあるでしょう。日本学術会議の会員は非常勤の国家公務員として発令されますが、あくまでも個人としての立場で任命されるものです。一般に、研究者が外部の組織の委員として委嘱されるときにはそれぞれの専門的な見解を述べることが期待されていて、自らが所属する組織とは独立の立場であるといえるでしょう。

研究者情報の公表と活用について

大学や研究機関に在籍する研究者は自らの研究成果を論文などで公表していますが、その情報はどのように公開されているでしょうか。論文誌に掲載される論文は、その分野の研究者は論文誌を見て知ることができるでしょうが、それでも、論文誌は数多く存在しますので、網羅的に見ることは難しいでしょう。また、少しでも分野が違う研究者にとっては、研究成果はなかなか分からないものです。一般に、研究者が公的な立場で研究を行っていることを考えれば、研究者自らがその研究成果などを社会に向けて公表すべきではないでしょうか。研究者情報の公表は、学術界における自律的な学術公正性の確保にとっても有用だといえるでしょう。今回は、研究者に関わる情報を自ら公表するとともにそれを活用することを考えてはどうかという提案です。

2013年10月8日火曜日

学術界での利益相反について

学術界における「利益相反」は、研究不正の文脈の中では表面に出てこないようですが、研究者の不適切な行為として「学術公正性」の観点から捉えるべき課題だといえるでしょう。以前にも参照した「日本の科学を考える」サイトでの議論の中で感じたことです。職務上の「利益相反」というのは、「職務として中立の立場で業務を行うべき者が自己や第三者の利益を図り、職務の中立性を損なうこと」だといえます。

2013年10月5日土曜日

「審議のアーキテクチャ」について

計算機科学の分野では「アーキテクチャ」というと、直ちに Computer Architecture を思い浮かべます。もちろん、「アーキテクチャ」はそれ以前から建築学で使われている用語です。しかし、このことばはさらにより広い分野、たとえば社会思想の分野でも使われていることを知りました。日本学術会議の審議について、会員のある方との立ち話でこのことばを教わりました。その概念を正確に表すことができないのですが、「組織の構成員が自発的に議論に参画できるようにすることにより、一部の構成員からなる委員会審議よりも本質的な審議をすることができるのではないか」いうことで、審議の構造に関することをこの「アーキテクチャ」ということばで表現してみたのです。もとより、ここでは「アーキテクチャ」の用語を議論しようというのではありません。以下は、新たな「審議のアーキテクチャ」の提案です。

2013年9月29日日曜日

自律的な学術公正性の確保に向けて

以前に記事「Academic Integrity と Research Integrity」を書きました。"Academic Integrity" は「学術における誠実さ」ということですが、これを「学術公正性」と呼ぶのはどうでしょうか。"Research Integrity" を「研究公正性」と呼ぶことに対応するものです。繰り返すことになるかも知れませんが、学術公正性について考えてみました。学術界で学術公正性を保証するためには、どのような仕組みが考えられるでしょうか。

2013年9月28日土曜日

文科省の「研究不正に向けた取組」について(追記)

文科省の研究不正の取組については、一月ほど前に「文科省の『研究不正に向けた取組』について」として意見を述べましたが、9月26日に文科省から「研究における不正行為・研究費の不正使用に関するタスクフォース」の中間とりまとめが公表されました。そこには、「国による監視と支援」として「『研究公正局(仮称)』のような第三者監視組織の設置などは今後に向けた大きな課題である」と書かれています。以前の記事にも書きましたが、(研究不正だけではなく)学術界の不正に対処する自律的な活動を促し、不正に関して審理裁定を行う機関が必要だと考えていますが、「監視」ということには違和感があります。

2013年9月8日日曜日

Academic Integrity とResearch Integrity

これまでに、「学術『公正局』」ということでいくつかの記事を掲載しました。最近の話題が「研究不正」への対応に向いていることから、また、生命科学分野の議論が活発で、米国のORI(The Office of Research Integrity)が参照されて、「公正局」という表現が使われていたことから、その名称を借りました。しかし、わが国で実効的な組織を考えるときに、米国ORIの機能でよいのかどうか検討が必要だという指摘もあります。このなかで、研究不正だけではなく、経歴詐称や業績誇称など学術上の不正を対象とする組織を「学術『公正局』」と表しました。

2013年9月1日日曜日

文科省の「研究不正に向けた取組」について

8月29日に公表された文部科学省の平成26年度概算要求の資料(のp.41から始まるp.50)に「研究不正に向けた取組」の要求が示されています。そこには、「考え方」として、「研究不正の防止に向けて、副大臣を座長とした『研究における不正行為・研究費の不正使用に関するタスクフォース』を設置し、これまでの不正事案に対する対応の総括を行うとともに、今後講じるべき具体的な対応策について検討。また、平成26年度概算要求に、研究倫理教育プログラムの開発や普及促進等に係る経費・体制強化を盛り込む。その際、日本学術会議とも連携しながら取組を推進」とあります。

2013年8月31日土曜日

学術「公正局」について(追記)

前回に書いた学術「公正局」についての追記です。

日本学術会議では2005年8月31日に、当時の黒川清会長のコメントで、「日本学術会議においては、科学者コミュニティを代表する立場から、科学者コミュニティの自立性を高めるために、関係諸機関と連携して、倫理活動を展開するとともに、ミスコンダクト審理裁定のための独立した機関を早い時期に設置することを検討すべきこと」と提言しています。

2013年8月27日火曜日

学術「公正局」について

最近の「研究不正」に関わる議論の中で、不正に対応するためのシステムとして「公正局」の必要性が議論されています。あるいは、研究上のことだけではなく、学術界や大学界のその他の不正への対応も考える必要があるかも知れません。研究不正の背景には、研究者個人の評価やそれに基づく研究職、大学教員等の人事や雇用に関することも考えられますし、そこには、学位詐称や業績捏造、業績誇称といった不正も問題とされるでしょう。「専門的な見地から」という理由で、社会から距離を置いてきた学術界のさまざまな慣行が問題を複雑にしている面もあると思います。

2013年8月24日土曜日

研究費に思うこと

「研究不正」にはさまざまな要因がからみあっていますが、研究費との関係もその一つでしょう。研究費の「不正使用」ということが、今でも報道されます。科学者が社会からの信頼をなくする大きな問題だといえるでしょう。論文の捏造や論文数の水増しなどは研究成果に関する不正ですが、研究実施に係る経費はどうなっているのでしょうか。

2013年8月16日金曜日

科学者倫理に思うこと

このところ、「科学者倫理」や「研究不正」のことについて考えることが多くなっています。前回には、「生涯論文数」についてと題して、関連する記事を書きました。

折しも、それはまったく意外でしたが、8月6日に日本学術会議の大西隆会長から会員・連携会員に向けて、「英文プロフィールについて」というメッセージが送られてきました。

2013年7月29日月曜日

「生涯論文数」について

最近、研究者のさまざまな「不正行為の防止」が科学研究の大きな課題になっています。かなり前に、「科学者の行動規範とAcademic Honesty」という記事を書きましたが、依然としてこのような話題が尽きません。

研究の成果を正確に公表すべき論文を「捏造」するという研究者にとっては信じられないことが起こっています。これとは別ですが、研究費の私的流用という犯罪も話題になっています。論文の捏造には複雑な背景があるといわれることもありますが、研究者の学術界に対する、いや、社会に対するきわめて重大な欺瞞行為に違いはありません。それ以外にも、研究者が論文数を過大に誇示することも問題でしょう。

2013年4月5日金曜日

日本学術会議 副会長辞任にあたって

2013年4月2日に日本学術会議の副会長を辞任いたしました。辞任にあたって、総会で辞意の表明、および退任の挨拶をいたしました。副会長を1年半、務めました。その間、ご協力いただいた関係者の方々に感謝いたします。

以下に、辞任の申出と退任にあたっての挨拶を引用いたします。

「高山仰止 景行行止」への道

1年半年ぶりの再開です。

「高山仰止 景行行止」は、「高山は仰ぎ、景行は行く」ということだそうです。

2年前、大学を退職するときに、後輩の同僚から贈られたことばで、詩経にあることばだそうです。「景仰」の語源で、徳の高い人がいれば、誰もが仰ぎ見て敬うことを意味することばになったということです。それを目指したいと思い、ずっと大事にしています。

これまで、「実践躬行を目指して」をキャッチフレーズにしていました。これも自らに課しつつも「高山仰止 景行行止」への道を求めたいと思います。